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最高裁判所大法廷 昭和28年(あ)3996号 判決 1960年3月16日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人小田久蔵、同入江正男の上告趣意について。

所論は、まず、「昭和二〇年勅令五四二号に基く命令は、別に法律で廃止又は存続に関する措置がなされない場合においては、この法律施行の日から起算して百八十日間に限り、法律としての効力を有するものとする。」との昭和二七年法律八一号の内容をなす昭和二四年政令三八九号の規定内容は、憲法二九条に違反する旨主張する。しかし、右政令三八九号の規定は、法定の除外理由ある場合を除き連合国占領軍の軍票等の収受又は所持を禁止し、これが違反者に懲役、罰金等の刑罰を科する旨を規定し、一面連合国占領軍の占領政策遂行の目的を達成するために制定されたものではあるが、他面かかる軍票等が無制限にわが国内に流通するときは、わが国通貨の安定を阻害する等わが国の国内経済秩序に悪影響を及ぼす恐れがあるから、かかる国内経済秩序維持という公共の福祉を維持するためにも制定されたものである。されば、同政令の規定内容が憲法二九条に違反する旨の所論は、採るを得ない。

次に、所論は、右政令三八九号を廃止すると共に、「この法律の施行前にした所為に対する罰則の適用については、なお従前の例による」旨を規定した昭和二七年法律一三七号は、憲法三九条に違反する旨主張する。しかし、昭和二四年政令三八九号の規定内容が憲法二九条に違反しないことは、前示のとおりであるから、その違反することを前提として同令を平和条約発効と同時に失効したものと見ることはできない。従って、同年法律一三七号をもって、一度失効して効力のなくなった罰則を更に復活させて爾後において過去の行為に遡及適用せしめようとするいわゆる事後立法であるとする所論も、その前提を欠き採るを得ない。

さらに、所論は、昭和二四年政令三八九号は、日本国憲法所定の国会の制定した法律でないから、憲法三一条に違反し無効であり、従って、前記法律一三七号はこの点からも無効である旨主張する。しかし、同政令は、昭和二〇年勅令五四二号に基き制定されたものであって、同勅令並びにこれに基き制定された政令は、日本国憲法にかかわりなく憲法外において法的効力を有するものであることは、すでに、当裁判所大法廷の判例とするところであり、(判例集七巻四号七七五頁以下)、そして、右政令の内容が憲法二九条に違反するものでないことは前示説明のとおりであるから、所論憲法三一条違反並びにこれを前提とする主張も採るを得ない。

以上の理由により、所論免訴の主張は、すべて、その前提において失当であるから、刑訴四一一条一号の法令違反の主張としても採用できない。

よって、刑訴四〇八条に従い、裁判官の全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田 克 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一 裁判官 高橋 潔 裁判官 高木常七 裁判官 石坂修一)

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